studio velocity

栗原健太郎+岩月美穂/studio velocity展

fluctuation「ゆらぎ」

“ fluctuation - ゆらぎ ”
ぼくたちが事象を認識する思考過程は
いつも現実とイメージの間を揺れ動き
過去と現在の記憶の間を揺れ動き
未体験と体験の間を揺れ動き
自分の中と他者との間で揺れ動き
いろいろな情報が重なり合って今日、そう把握する。
現実のなにも建っていない敷地を眺めているとき
現実と異なる縮尺の敷地模型をつくっているとき
模型という現実とは異なる小さな世界の中で
環境と新たな関係を結ぼうと建築を考えているとき
現実の4次元空間を2次元の図面として考えているとき
現実の敷地写真にイメージのパースを描いているとき
現実の敷地に建築が建ち上がりながら仕上がりをイメージするとき
できあがった環境を現実に歩き回って体験するとき
そして現実にできた空間の写真を眺めているとき
様々な場面でそこにある現実とイメージとの間を横断する。
そのような不確かな状況のなかで
確かに存在しながら、しかししなやかに揺れうごく
リアルとイメージを同時に包含する状況をつくりたいと考えている。

“ 水のようにゆらめくストラクチャー ”(1F展示)
空間に建つ壁を、自立できる限界の薄さで建てることで
自然の風や人の動きで出来る気流にさえ影響を受けてゆらぐ
水のようなストラクチャーをつくりたいと考えた。
壁は厚さ0.25mmのフィルムであり
水のような反射と透明性を備えるために
アルミ蒸着フィルムを貼っている。
見る位置が自然光の入る明るい場所だとフィルムは鏡のように周囲を映し込み、
逆に暗い位置からフィルムを通して自然光の入るスペースを見ると透明に透けて見える。
フィルムのボリュームの周りを歩くとき空間の中に存在する照度の濃淡を反射と透過によって経験する。
また床との接地部分は固定されているのでゆらぐことはないが、
壁の上端部分は自由端になっているため最も気流の影響を受けてゆらぐ。
その応答の様子はテーブルの上にこぼれたときの水の挙動のようでもあり
また、海の中で水流に揺れる海草のようでもある。
自然がつくり出す造形はいつも曲線であり
揺れ動く不安定さがあり
時間とともに形が変わってゆく。
建築という人工的な行為がつくり出す造形物が
極限まで薄いという今までのストラクチャーには無かった
新たなスケール感を与えられることによって
自然物の在り方にすこしでも近づければ
空間の定義がやがて変わっていくのではないかと考えている。

" floor-scape , scanning traces "(地下1F展示)
1/1スケールの現実として床にある様々な痕跡
―コンクリートのクラックやペンキの跡や何かが落ちてできた傷―
を地図のようにスケールを小さくして読み込むと
新しいランドスケープが見えてくる。
あちこちに入っているクラックは連綿と枝分かれする小川の流れであり
ペンキや汚れの跡は植物の群生するオアシス。
小川のほとりには様々な種類の植物が茂り
そこを渡るための橋が架かる。
それは、もともとある環境を読み解いて新たな状況を作ろうとする
建築のリノベーション的な思考であり
また1/1の現実と小さな縮尺の模型との間のスケールを
横断して行き来するイメージの中の空間である。
床のマテリアルと真っ白で小さな模型のランドスケープが混ざり合い
リアルとイメージが統合され新しい状況が生まれる。