selection 2021

飯田信雄・橋村豊写真展/nature / culture

PHOTO EXHIBITION
NOBUO IIDA / YUTAKA HASHIMURA

produced by edition HM (SHIGEO GOTO)

2021年11月6日(土)〜11月28日(日)
開廊時間/ 12:00 - 19:00[毎週火・水曜日休廊]

edition HMは、2021年に浜松を拠点として後藤繁雄がスタートさせた新しいブックレーベルで、東海リージョンを活動基盤、あるいは被写体とする写真家・アーティストの写真集を発行し、展覧会をプロデュースするプロジェクトである。
今回の展覧会は、橋村豊の写真集『terrestrial』、そして飯田信雄の写真集『FLOWER PARK』の出版のタイミングで開催される。
edition HMは、ローカルとグローバルをつなぐ新しいヴィジョンを持つ。ローカルのテーマを深く掘ることで、グローバルな課題を浮かび上がらせたいと考える。
このedition HMのコンセプトと活動は、これに先行する「ニューネイチャーフォトフェスティバル」がベースとしてある。2012年から4年にわたり文化庁の助成のもとに後藤繁雄がプロデュースを手がけた群馬県「川場村ネイチャーフォトフェスティバル」がそれであり、同時開催した「ニューネイチャーフォトアワード」もまた重要な活動であった(審査員を上田義彦、石川直樹らがつとめた)。
これは、震災により提起された「人間と自然」の関係を問い直す写真の新たな探求であった。
そして受賞作家は、歴史民俗資料館と年間180万人以上の来客がある「道の駅・田園プラザ」の野外に展示された。
ちなみに本展の作家・飯田信雄はこのアワードの受賞がきっかけとなり、現在の作風が始まった。
そして、後藤繁雄は浜松へと活動拠点を移し、東日本大震災から10年を経た2021年に、リージョナルからグローバルを思考する新たな活動としてスタートさせたのがedition HMであり、その写真集発行の第一弾が橋村豊の『terrestrial』てあった。
橋村は静岡県藤枝市在住の写真家であり、大井川上流などの自然破壊の姿を8×10のモノクロームで静かに、そして美しく写真に仕上げていく。
その背景には、東日本大震災以降に進んだ、地球環境についての思想が投影されている。
福島のカタストロフ以降、異常気象やCO2の問題、そして2020年から全世界を今も麻痺させ続けている新型ウィルスCOVID-19など、うち続く厄禍は、人間文明を根本から再考を迫るものとなっているのである。
象徴的にも橋村豊が作品タイトルとしている「terrestrial」とは、フランスの現代思想家ブルーノ・ラトゥールの用語であり、それは「地球」との付き合い方の新段階へシフトすることの提起であった。
モノクロームを主体とする橋村豊に対して、飯田信雄の『FLOWER PARK』は、カラフルなアブストラクトで、官能的ですらある。これらの写真は、飯田が浜松のフラワーパークに通い、四季を通じて、彼が発明した独自の撮影法で創造したものだ。
ここにおいては、写真は真実を「シュート」するものではなく、新しい現実を「メイク」するものとなった。
飯田信雄の写真は植物や花と対話しつつも、たんなる「ネイチャーフォト」にとどまることなく、「視覚」や「認知」を提起する「現代アートとしての写真」へと昇華させることに成功していると言えるだろう。
東京オリンピックという喧騒が去り、アフターコロナの生き方が模索される中で、edition HMの2人の写真家の展覧会が岡崎よりスタートできることは、じつに予感的と思われるのである。
後藤繁雄(edition HMディレクター/京都芸大教授)